item キャラクターという幻想

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written 2002/8/16 [ updated 2006/6/2 ]

 ここで言及したいのはいわゆる幼児向けの「キャラクター」であり、私は、2歳になる娘とともに、それらに接してきた体験を通して、語りたいと思っている。
 生後間もない乳児はまだ何も見えていないのかもしれないが、赤ん坊に向かって母親や父親が微笑んでいることを察しているのではいか、という憶測がある。このへんのことはよくわからないのだが、親たちは一般に、ベビーベッドの周りをかわいらしい表情のぬいぐるみで埋めてやるのが常で、わざわざおそろしげな妖怪の人形を赤ん坊の周囲に配置してやる親はたぶんいないだろう。
 この「かわいさ」という意味を生成する記号の文法は、丸さ・やわらかさ・笑みを表す表情記号(さがった目尻、U字形の口の線など)、単純さなどといったものを主要な要素としている。これらのものが、実際に生後間もない乳児にどのように知覚されるか、ということについては、私たちにはよくわかっていないのだが、母親の示す表情と関係がありそうだ。だからすべての「幼児向けキャラクター」の顔立ちは女性的なのだろう。それは母親の象徴としての記号となる。
 同種の系列に属する人形を配置してやるというこの行為は、親の「愛情」と呼ばれる感情をモノに転移し、さらに子どもじしんの中に転移してやろうという欲動を表しているかもしれない。
 さて、もう少し成長した幼児は、「キャラクター」に大きな関心をもつ。
 すなわち、やなせたかし氏のアンパンマンやサンリオのハローキティ、ディズニーのプーさんやミッキーマウスなどだ。
 これら「キャラクター」なるものは、人為的に生み出されひとつの巨大なマーケットを形成し続けているという点で、現代的なものというほかないが、不思議と子どもたちに愛されるようだ。
 
 特にアンパンマンは幼児に対し強い人気を誇る。原作のやなせたかし氏による、創作当初の詩情はテレビ/マーケットを通過することによって、もっとステレオタイプなものに変形させられてしまっているが、テレビの主題歌などの、氏による作詞には、子ども番組とは思えない人生論的な視点があって異彩をはなっている。
 うちの娘などは、まだ言葉を十分に理解できないから、テレビアニメのストーリーなどはさっぱりわからないと思うのだが、それでも、アンパンマンが映れば「アンパンマン、アンパンマン」と反応するし、雑誌やおもちゃの表層にもアンパンマンを求めようとする。
 アンパンマンのテレビ番組やビデオは、幼児向けということを十分考慮して、動作や視点の交替をかなりスローに設定している。
 キャラクター「アンパンマン」本体はというと、顔の造作が非常に単純で(幼児の絵によく見られるように、耳も省略されている)、ほとんど円形を配列しただけの幾何学形態、首から下も、色彩が赤と黄だけという(マントは茶色だが)明快さだ。それに、「アンパンマン」という語感も、幼児にとって言いやすく、成功している。悪役の「ばいきんまん」も含め、キャラクターはことごとく「ほほえみ/かわいらしさ」の記号をまとっており、そうした記号だけで形成されたひとつの世界を表象している。(子ども向けの)アニメーションは、多義性のない記号表象だけでこのような幻想としての世界構築を試みている場合が多いが、アンパンマンをめぐるキャラクター世界も、その一つということになるだろう。
 アンパンマンのキャラクターは、「ポケモン」とか、「ドラえもん」の「秘密道具」と同様、むやみやたらと増えていき、大人の視点で見ていると混乱してしまいそうになるが、子どもの興味を引き続けるためのひとつの方法であり、身体を再度活性化させる新陳代謝なのだろう。
 
 昔から女の子をターゲットに、市場の一角を占有してきたサンリオ最大のキャラクター「ハローキティ」は、口のない無表情を特徴とする。この無表情は、子どもがしばしば見せる造作だ。たとえば、好奇心をもって、背伸びしながらテーブルの上にあるものをきょろきょろと詮索しているときの表情だ。これを「無邪気さ」と呼ぶならば、この無邪気さが、ハローキティが高校生や大人の女性にも受けている理由だろう。ただし、この点は、ごく小さな幼児には通用しないかもしれない。
 子どもといっしょにいろいろなグッズ、ビデオを見るようになって知ったのだが、いまテレビでやっている「キティズパラダイス」などでは、ハローキティのイメージは昔のそれとはかなり隔たっている。飛び跳ね、歌い、パラパラを踊るこの現代の「キティちゃん」は、あの、横向きですわり、無表情な顔だけを見せていたあの「キティちゃん」とは、根本的に異なる。しかし、小さい子は踊るリズムには敏感に反応する。幼児向けキャラクターの鉄則である「単純な幾何形態」の願望をもつハローキティが踊れば、子どもも喜んで踊りだす。あの番組の音楽をやっている片山氏は、なかなかの才人だ。
 そういうわけで、ハローキティは私の娘のお気に入りのひとつである。(ちなみに、アニメ版のキティには口があって、表情がある。私にとってはこのキティの変貌ぶりはどうも違和感だけが残る。)
 
 これらに対して、私たち(1969年前後生まれの世代?)の男性の愛着してきたキャラクターで、印象深いのは、仮面ライダー、ウルトラマン、
 
「キャラクター」とは、記号で埋め尽くされた人工空間を指し示す象徴体である。

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