item マンドリンのこと

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written 2016/4/17

 もっと前にここに書いておくべきことだったが、私の新しい作品「Wind Passage for Flute and Mandolin」が、今年2016年3月4日に、モスクワのスクリャービン・ミュージアムでのコンサートにおいて世界初演された。マンドリンはナタリア・マラショワさん、フルートはニコライ・ポポフさんである。
 この曲を書くきっかけとなったのは、昨年末にナタリアさんが私のヴァイオリンとフルートのためのデュオ作品「Nodes」を発見し、Facebookで私を捜し当て、これをマンドリンとフルート用にアレンジして演奏して良いか、とコンタクトを取ってくださったことだ。
 ナタリア・マラショワ(Natalia Marashova/Наталья Марашова)さんはサンクト・ペテルブルグ出身のロシア人マンドリニストで、現在ドイツに在住し、ロシアとヨーロッパを駆け巡って演奏活動をされている。得意分野はバロック音楽だと思うが、コンサートに現代曲もしばしば盛り込んでいるらしい(このへんが日本人の音楽家と違う!)。
 マンドリンの4本の調弦はヴァイオリンと全く一緒で、音域もほぼ同じなので、フルートとマンドリンのための二重奏曲なんかそうそう存在しないため、彼女はマンドリンをヴァイオリンと置き換えて検索し、私の「Nodes」に行き当たったと思われる。
「Nodesをアレンジしても良いですが、なんなら、フルートとマンドリンの二重奏のために新作を書きましょうか?」
と私は提言し、マンドリンという未知の楽器について急遽研究しつつ、正月休みの数日間で熱に浮かされたような勢いで一気に「Wind Passage」を書き上げた。ナタリアさんにマンドリンパートの、演奏不可能な箇所と難しすぎる箇所をチェックしていただいた。
 これはナタリアさん、ニコライさん双方に気に入っていただけたようで、3月にロシアで公演されたのである。

“Concert

 そのときの動画を後日見せていただいたが、惜しくもナタリアさんが不調だったようで、「あまり良い演奏ではないから」と、動画をwebでは公開しないと告げられた。しかしバロック音楽等一般的クラシック作品が並ぶプログラムの中での現代曲にもかかわらず、私の作品の演奏の後は、聴衆はたくさん拍手してくれて、「ブラボー」の声も出たことが嬉しかった。ニコライ・ポポフさんのフルートは熱くて、素晴らしいものだった。とりわけニコライさんの気迫に、聴衆も圧倒されたのかも知れない。
 この作品は夏にペテルブルグで再演されるそうなので、YouTubeにライヴ動画が公開されることを期待している。

 さてこの作品「Wind Passage」の楽譜やコンピュータによる演奏音源をいまだに公開できずにいるのは、これをナタリアさんに献呈したためだ。人様に「献呈」などというのは初めてで、「自分のつまらない作品なんか、もらっても嬉しくないんじゃないかなあ」という思いが先行するために抵抗があったが、ナタリアさんはとても喜んでくれた。
 で、献呈したということは、よく知らないのだが、その作品の所有権は献呈対象者に共有される(あるいはほとんどアチラのもの?)というのが正しい考え方ではないかと思う。彼女の意向は、この楽譜は「IMSLP」等webで無料配信するよりも、リアルな楽譜出版社から正式に出版してもらった方がいい、その方がマンドリン奏者に見つけてもらいやすいだろう、ということだった。既に彼女はドイツの出版社に交渉してくださっていて、本当に私の楽譜が出版されることになるかもしれない。「無料主義のアマチュア」である私としては、経験の無いことだし、どうかなという思いもあったが、確かに自分の作品が知られるようにするためには良いのかもしれない、と、彼女に全てお任せすることにしている。

 ナタリアさんには当初私にマンドリンの基礎知識を授けるべくたくさん時間を割いていただいたので、私は彼女に大いに感謝し、「マンドリンのための作品を複数書きましょう」と約束していた。
 で、1月から3月末までのあいだ、私はマンドリン独奏曲の作曲に取り組んだ。一応これは完成し、タイトルだけ明かすと「Star Sign Tales for Mandolin Solo」というのだが、多忙なナタリアさんに再びチェックを仰いでいるところだ。
 マンドリンは姿はギターに似ているが、ギターと違って4弦しかない上、常にピックで弾くから、作曲する上での「自由度」はギターよりも遥かに低い。飛び越えた弦を同時に鳴らすことができないし、腕が上下どちらにストロークしているかということをも、作曲者は意識していなければならない。ついでに言うとギターよりも音はキンキンしていて軽いが、倍音成分が少ないのか音量は小さいので、フルートなど他の楽器との二重奏では、相方が強奏しているときに一生懸命細かい動きをやっていても、はっきり聞こえないようだ。さらにその小さな音は余韻も比較的短い。だからマンドリン曲ではトレモロ奏法が多用されるわけだが。
 この難しい楽器に真面目に取り組むのは、不慣れならなかなかに大変で、だから独奏曲(7分ほど)を書くのに3ヶ月もかかってしまったのである。
 延々といじっていたせいか自分でもあまり出来が良いという自信はないが、この作品の命運はまだわからない。
 あと、ナタリアさんの方から、マンドリン・オーケストラによる現代曲のコンサートを夏にやるので、作ってみないか、と誘われているが、マンドリン・オーケストラなるものの詳細がわからず、時間的に間に合うかどうか不明だ(他にも委嘱されている作品、参加してみたいとおもっている作曲コンペがあるため)。

 マンドリンのための現代曲は確かに少ない。ギターよりずっと愛好者が少ないためか、演奏の機会に恵まれることがあまりないためか、現代音楽のビッグ・ネームたちもマンドリンの曲は書いていないようだ。マンドリンソロの現代曲を探してみるとどういうわけか日本人の作品が多かったりする。マンドリン・オーケストラに至っては、ポピュラーミュージックのアレンジを演奏したアルバムしか出てこない。
 しかしせっかく縁があったマンドリンである。何とかこのマイナーな分野で、良い作品を残せないものかと思っている。

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