item 「遺作」後の流れ弾―MATARAJIN

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written 2012/12/4

Context of Water」という「遺作」を先日完成させてしまい、既に何かが終わっている。
自分の限界が明白になり、もはやこれ以上遠くへはそうそう進めそうにない」という壁にぶつかったから「遺作」なのであり、本当はそこからは当面何もできないはずだが、まだ、エレクトロニクス/ボーカロイド(ポピュラー寄り)部門では、やり残したことが沢山あるように思っていた。というのは、とりわけサウンドメイキング上のテクニックが不足しているから、なかなかアイディアを体現出来ずにいるためだ。
 既に「遺作」を書いたのだから、今度は少しリラックスして、適当にやってみたかったことをやっておこう。ということで、エレクトロニカ系のボカロ曲にとりかかった。何しろ、「VOCALOID3 結月ゆかり」は購入してまだ1回しか使っていないのだから、もったいないのである。

 今作「MATARAJIN」は、2009年に作った「マーヤ―」という曲によく似ている。テーマもそっくりである。だが、「マーヤ―」がある種のフュージョンになってしまったのに対し、よりエレクトロニカ寄りでノイジーな、コンテンポラリーな雰囲気になったのではないかと思う。
「ポピュラーミュージック」の類型なるものに直接没頭するわけでもなく、現代音楽的な感性を動員して好きなようにやっている。しかし「好きなようにやる」ことは、「即興演奏」によくあるように、自分の手癖を無反省に繰り返しがちなので、どこかで必ず、自己への批判のまなざしを維持していなければ、ただただ退屈な作業になってしまう。この対-自我の態勢はあまり真剣にやると、またも疲れ切ってしまうのだが、今作ではそんなに深く考えなかった。
 8分の7拍子、5拍子から、4分の3拍子のビートに乗って、無機質なメカニズムに身を任せることでストレスを回避した。何しろ「遺作」後の世界なのだから、ここは死後の世界、ぼんやりと身を任せるほかないではないか? あるいはもうじき転生し、またぞろ苦しい生を最初から始めなければならないのかもしれないが。


 ところでタイトルの摩多羅神(またらじん)というのは、天台密教の秘仏であるらしく、その仏像はふだん隠されていて外部に公開されることもなく、どうもインド由来の神ではないので、出所がよく分からないらしい。道教から来たか、あるいは日本で合成された神なのかもしれない。摩多羅神に関する史料があまり残されていないので推測するほかないが、伝わっている絵図を見ると、音楽や舞に関係がある神かもしれない。
 猿楽-能楽の守護神(つまり芸能の神)とされる宿神(しゅくしん)と同一の神だとする主張も多いようだが、はっきりと断言できるわけでもなさそうだ。
 いずれにしても、民俗的な呪術/アニミズム的発想によって、仏教に、後からミックスされた「民俗的な」神であることは間違いない。私は摩多羅神についてはよく知らないが、民間的な・あるいは密教、修験道的な呪術思想と、狂躁(お祭りさわぎ)的・パラノイア的な発現を、この曲に込めたつもりだ。この曲は、柳田國男や宮本常一などの民俗学への愛着を、いささかデフォルメして音響空間にぶつけたような曲である。

 しかし自分のやりたい音楽をある程度実現できてきても、相変わらず、私の曲はあまり多くの方に聴いてもらえてはいない。いや、聴いてもらったとしてもごく一部の方以外には受けが悪いのは、才能の無さや精進不足が原因であろうし、「結月ゆかり」がパッとしないキャラクターデザインのせいか一般的にはあまり人気のないボーカロイドだということも、少しはあるだろう。
(実は、今回結月ゆかりと初音ミクのツインボーカルにしようと最初思ったのだが、私のMac + CrossOverの環境では、Vocaloid2ライブラリからVocaloid3へのトランスポートがうまく出来ない。さすがにV3とV2を同時に起動しているとメモリが食われ、頻繁にソフトが落ちてしまったので、ミクの方を諦めた。)

 今回の曲も前作(du | vous | you)同様に不評だったら、ちょっとあれだなあ、本当にそろそろ引退どきかも。とか。

摩多羅神に関する参考文献:
川村湊著『闇の摩多羅神』河出書房新社
中沢新一著『精霊の王』講談社

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